「AIを入れたら、来年の若手の採用はやめていいのだろうか」。AIの雇用への影響を調べていると、ここで手が止まります。i-Style の記録を数えた結論を先に書くと、AIの数字だけでは決められません。記録から見えたのは、AIの稼働が週100時間を超えた3週は、どれも画面の文章を読むだけで週40時間を超える量が出ていたことでした(毎分500字の仮定)。
Claude を作っている Anthropic 社は、2026年10月16日に、自社の雇用がAIでどう変わったかをまとめた報告を公開しました。技術職の採用に占める若手の割合は27%から9%に下がり、人が指示したAIエージェント(指示を受けて作業を進めるAI)の稼働時間は、8月に人の6倍に達しています。
AIを作っている会社の話で、自分の会社とは遠いと感じるかもしれません。そこで i-Style でも、仕事で使っている Claude Code(作業を任せられるAIのツール)の4週間の記録(Mac mini 1台・動かしているのは1人)を、報告の注に合わせた定義で数えました。AIの稼働は週約100時間で、人の時間を週40時間と仮定すると2.5倍です。あわせて、こちらで決めた数え方で出した、AIが人の返事を待っていた時間は週86.5時間でした。
先にまとめ
この記事を読むとわかることは、AIの雇用への影響について Anthropic の報告から言えることと、i-Style の記録から見えた、AIが増えると足りなくなりそうなものです。Anthropic では若手の割合が下がった一方で、会社の人数は1年で3倍になり、技術職の採用数は増え続けています。報告自身も、同社のやり方には経済全体で真似できない部分が多いと断っています。
i-Style の4週間(2026年10月5日〜11月1日)では、AIの稼働は週約100時間で、1人の週40時間の2.5倍でした。人が応じた回数は1日平均280回です。画面の文章を読むだけでも、毎分500字の計算で週46.5時間かかります。
小さな会社が今週できるのは、AIに渡す量を決める前に、確認に使える時間を週何時間と書き出すことです。若手を採るかどうかも、確認できる人を誰がどう育てるかと合わせて考えたほうがよいと、i-Style では見ています。
Anthropicでは技術職の採用に占める若手が27%から9%に。ただし会社の人数は1年で3倍
Anthropic の報告は、人事・AIの利用・成果・社員アンケート・予定表などの社内データに、社員17人への聞き取りを合わせたものです。AIの利用の最前線にいる会社が、自社の中を数えて出した資料と言えます。
技術職の若手が前ほど要らなくなったという話は、2026年1月に中核の技術部門で出始めました。4月までに、技術と研究のチームは下位の職位の採用を重視しなくなっています。同じ4月の調査では、機械学習の管理職の約3分の1、ソフトウェア開発の管理職の約5分の1が「AIのために採用を減らした」と答えました。
| 報告に出てくる数字 | 値 |
|---|---|
| 技術職の採用に占める若手の割合 | 27%→9% |
| 技術部門の社員に占める若手の割合 | 21%→14%(2025年初め以降) |
| 全社員に占める技術部門の割合 | 61%→56%(直近1年) |
| 人が指示したAIの稼働時間 | 2026年8月に人の6倍 |
表だけを見ると、AIが若手の仕事を奪ったように読めます。ただ、同じ報告には別の数字も並びます。会社の人数は1年で3倍になり、技術職の採用は数としては増え続けました。それを上回る勢いで増やしたのが、営業・財務・採用の部門です。
事務の仕事も参考になります。会社の規模に合わせて増えるはずの事務部門は、採用の勢いが上がっていません。秘書のような作業をAIに任せ、点検を自動にし、問い合わせ対応を外注することで、事務の人手を抑えたと報告は書いています。一方で、在籍1年以上の社員が月ごとに部署を移る割合は、2025年より2026年のほうが50%高くなりました。仕事が変わる人を、社内で動かしています。
マメ
うちは8人の会社で、来春に事務の若手を1人採るか迷っています。AIの契約で済ませれば、採らなくていいですか。
ホク
この報告からは、そこまで言えません。Anthropic で割合が下がったのは技術職の若手で、AIを売っている会社の話です。事務の人手を抑えた例はありますが、8人の会社にそのまま当てはまるかは分かりません。
マメ
では、どこを見て決めればいいですか。社長も私も、AIが出したものを読む時間は1日1時間くらいしかありません。
ホク
その1時間が、決めるときの大事な数字です。AIに渡せる量の上限になるからです。i-Style の記録で数えた結果は、報告の読み方を見たあとで書きます。
報告の数字は、AIだけの効果とも他社に当てはまるとも言えない。報告自身の断りを3つ見る
報告は、若手の採用の減少のほか、AIを使い始めたエンジニアの書くコードの量が増えたことも示しています。これらをAIだけの効果と読む前に、報告の断りを見ておきます。
若手の採用について、報告の本文が示すのは、管理職の回答と増減の数字に加え、Claude を最も複雑な仕事に使う職種ほど若手の雇用が伸びていないという記述までです。AIの効果を切り分けて推定してはいません。
断りの1つ目は業績です。研究者は営業の成果について「強いモデルを売っていれば、契約は取りやすい」と書いていて、急成長の時期の数字はAIの効果と分けにくいことを認めています。
2つ目は、AIを使い始める人が無作為ではないことです。報告はエンジニア192人と使わなかった74人を比べ、使い始めたあと書くコードの量が大きく増えたとしています。ただ「使い始める人は無作為ではない」と自ら断っていて、大きな案件を前にした人が先に使い始めていれば、数字は上に振れます。
なお、同じ社員・同じ月・同じフォルダで比べると、AIが書いたコードと本人が書いたコードで、後から削除されたり元に戻されたりする割合に差は見られなかったと報告は書いています。ただし、コードの品質には多くの面があり、AIの誤りは人の誤りより見つけにくいかもしれないとも断っています。
3つ目は、真似できる範囲です。報告は、同社のやり方には経済全体で真似できない部分が多いと断っています。報告が特徴として挙げた、社員に株を持たせるやり方についても、企業価値が大きく上がった会社だから取りやすい方法だと認めています。
日本語の資料では、大和総研のレポート「AIの雇用への影響をどう読むか」(2026年10月14日)が、米国を中心とした研究を整理しています。その要旨は、AIの影響の大きさについて「明確な結論は得られていない」と書いています。
つまり、雇用への影響は、外から見て言い切れる段階ではありません。自社で確かめられるのは、AIを増やしたときに自社の中で何が足りなくなるかです。i-Style には、それを数えられる記録が手元にありました。
i-Styleの4週間の記録では、AIの稼働は週約100時間で人の2.5倍
数えたのは、i-Style で使っている Mac mini に残っている Claude Code の会話記録です。期間は2026年10月5日から11月1日までの4週間で、この Mac mini の Claude Code を動かしているのは1人です。会話の本文は読まず、時刻と種類、AIが出した分量だけを集計しました。
数え方は Anthropic の報告の注に合わせ、AIの稼働時間には考えている時間とツールの実行時間を入れ、30分を超える待ちは除きました。人の時間は「人数×週40時間」で、実際に働いた時間ではなく報告と同じ仮定です。
| 週 | AIの稼働(時間) | 人の40時間比 | 実時間(時間) |
|---|---|---|---|
| 10月5日の週 | 124.9 | 3.1倍 | 51.1 |
| 10月12日の週 | 41.8 | 1.0倍 | 23.9 |
| 10月19日の週 | 105.8 | 2.6倍 | 51.3 |
| 10月26日の週 | 127.2 | 3.2倍 | 57.3 |
| 4週間の平均 | 99.9 | 2.5倍 | 45.9 |
4週間の合計は399.7時間で、うち37.9時間は会話から呼び出した補助のAI(サブエージェント)の分です。補助のAIを除くと2.26倍になります。Anthropic の6倍には届きません。同社の数字は全社員のもので、i-Style の数字は Mac mini 1台ぶんという違いもあります。
「週100時間」は、1週間に実際の時間で100時間動いたという意味ではありません。表の右端の実時間は、AIが1本でも動いていた時間で、週46時間ほどです(やり取りの1会話を1本、その会話から呼び出した補助のAIはまとめて1本と数えます)。その間は平均2.2本が同時に動いていました。3本以上が同時に動いていた時間は28.6%で、一番多い時は15本です。10月12日の週だけ少ない理由は、この記録からは分かりません。
並べて動かせば、AIの稼働はこの程度まで増えます。では、そのとき人の側では何が起きていたのか。Anthropic の報告が指摘しているのも、その部分です。
人の応答待ちは週86.5時間。人は1日平均280回応じていた
Anthropic の報告は、人の注意がボトルネック(全体の速さを決めてしまう詰まり所)になっていると書いています。人とやり取りしながら進める会話では、約80%の時間、AIは人の入力を待っています。あるエンジニアは「Claude の大群が、どれも自分の注意を求めてくる」と表現しました。
Anthropic と同じ計算で、AIが人の入力を待っていた時間の割合を数えると、i-Style は90.0%でした。ただ、この数字には会話を開いたまま席を外していた時間も入ります。そこで手元の数え方として、人が入力するまでの間のうち30分以内のものだけを足すと、週86.5時間になりました。人が直接やり取りした会話の稼働は週90.5時間なので、AIが動く時間とAIが人を待つ時間がほぼ同じ長さです。
これは並行する会話の待ち時間を足した数字で、30分以内でも人が席にいなかった時間は混ざります。1人が週86.5時間ずっとAIを待たせていた、という意味ではありません。同時に3本動けば、人が1分迷う間に3分ぶんの待ちが積み上がります。本数を増やすほど、人の1分が重くなります。
人が応じた回数は、4週間で7,846回、1日平均280回でした。文章で次を頼む、AIが出した選択肢に答える、ツールの実行をその場で許可する、の3種類を足した数です。並行作業の642回は、まとめ役のAIが人の答えを中継している可能性があり、除くと1日平均257回、応答待ちは週78.7時間です。
返すまでの時間の中央値は全体で60秒で、半分は1分以内に返しています。選択肢の答え方はAIの推奨がどれだけ選ばれたかを数えた記事に書きました。
1分で返した答えが十分に考えたものかどうかは、記録からは分かりません。今回分かったのは回数のほうで、1日280回応じる働き方に、人の読む時間が追いついているのかが次の疑問になります。
画面に出た文章だけで週46.5時間分。回答を短くする決まりがあっても週40時間を超えた
Anthropic は、AIの出力を全部読むと何時間かかるかも計算しています。出力の量(トークン。AIが扱う文字量の単位)に0.75を掛けて語数にし、毎分250語で割る方法です。この計算では、技術職以外の社員でも、AIの出力を読む時間が週の労働時間の半分を超えると書かれています。
同じ式で i-Style を数えると、週40時間の21.4倍という数字が出ます。ただ、この量にはAIが考える途中の文章や、ファイルに書き込む中身まで入ります。英語を前提にした換算でもあるので、日本語で仕事をする場合の読む時間としてはそのまま使えません。
そこで、人の目に触れる画面の文章だけを別に数えました。人が直接やり取りした会話でAIが書いた文章は、週平均139万字です。毎分500字で読むと仮定すると(500字はこちらで置いた目安です)、週46.5時間になります。4週のうち3週は40時間を超え、一番多い週は64.8時間でした。
i-Style では、AIの回答は「結論から書き、通常は10行以内」と決めています。それでも、4週のうち3週は週40時間を超えました。決まりが1回ごとに守られていたかは数えていませんが、決まりを置いただけでは1週間の総量は週40時間に収まらなかった、というのが今回の記録で分かった失敗です。
読んだかどうかは測っていません。毎分500字と週40時間の仮定では、その3週は仕事の時間を全部使っても読み切れない量です。では、この読む量と応じる回数を、採用の判断にどうつなげるか。
小さな会社の採用は、確認に使える時間から考える
記録で見えたのは、AIの稼働が週100時間を超えた3週は、どれも画面の文章を読むだけで週40時間を超えたことでした。作業の手の過不足は測っていませんが、先に足りなくなるのは確認する人の時間だと i-Style では見ています。Anthropic の報告も同じ向きで、技術職の面接では自律性と判断力への言及が最も増え、専門知識への言及の比重は下がったと書いています。
だから i-Style が考えるのは、「AIがあるから人は要らない」でも「AIと関係なく採る」でもなく、確認に使える時間を先に数えるやり方です。週に確認へ使える時間が5時間なら、毎分500字で読める上限は15万字です。i-Style でAIが1週間に書く文章(週139万字)の1割ほどにしかなりません。それを超える量の仕事をAIに任せると、出力を読まずに進めるか、確認待ちでどこかが止まるかのどちらかになります。
確認の時間が足りないとき、先に手を付けられるのは人が応じる回数です。i-Style はツールの自動許可を使っていて、ツールの実行の判定84,181回(補助のAIの分と、拒否された945回を含む)のうち97.2%は設定で自動的に許可し、人がその場で許可したのは1.5%でした。一方、送信・削除・公開のように取り消せない操作は、調べたうえで選択肢で人に聞く決まりです。この線引きを先に決めておかないと、回数はそのまま人に返ってきます。
若手の採用も、この時間と切り離せません。報告は、仕事を自動化していくと、もともと技能を育ててくれた実務から離れていく役割があると書いています。大和総研のレポートの要旨も、「若手の採用を絞る判断は、個々の企業には合理的でも、続けば将来の経験者が育たない『育成の空洞化』を招きかねない」と書いています。
AIの間違いに気づく力も、自分で手を動かした経験から育つのではないか、と i-Style では見ています。AIで若手の作業が減るなら、採用をやめる前に、減った分を確認の練習に回せないかを考えるほうが現実的です。少人数の会社で来春の1人を決めるなら、その人が3年後に確認役になれるかまで含めて考えたいと思います。事務の採用も同じで、点検を自動にしたぶん、その結果を誰が確認するかを先に数えておきたいところです。
ただ、報告で社内を移っていたのは在籍1年以上の社員で、報告自身も、こうした取り組みは若手の採用の鈍化に直接は応えないと書いています。若手の育て方は、自社で考える部分です。
今週できることは3つです。1つ目は、AIが出したものを読むのに使える時間を、人ごとに週何時間と書き出して足すこと。2つ目は、AIに任せている仕事のうち、読まずに通している物を1週間だけ書き留めること。3つ目は、自動で進めてよい操作と、人が必ず見る操作を分けることです。どれも、i-Style ではまだ効果を測れていません。
「AIを入れたら、来年の若手の採用はやめていいのだろうか」という最初の問いに、Anthropic の数字は答えてくれません。答えを出す材料は、自社の確認の時間の中にあります。
確かめた資料は Anthropic の報告、大和総研の要旨、Mac mini の会話記録
報告の内容は、Anthropic の研究ページ「How employment is changing at Anthropic」(2026年10月16日公開)を、2026年11月5日に原文で読んでまとめました。図は画像のため原文に書かれた数字だけを使い、PDF版は読んでいません。報告は一部だけを、出所を示して紹介しています。鉤括弧の発言と記述は、原文をこちらで訳しました。
日本語の整理は、大和総研「AIの雇用への影響をどう読むか」(2026年10月14日)の要旨を同じ日に読みました。鉤括弧の部分は要旨からの引用で、レポート本体の細かい数字は読んでいません。
i-Style の数字は、2026年11月5日0時24分の1回の集計です。読み込んだ記録は2026年9月6日〜11月5日の4,424ファイルで、数えたのはそのうち4週間の分です(人が直接やり取りした会話は361.8時間)。Claude Code だけで、Codex や MacBook Air、スマホの分は入っていません。報告の注は補助のAIをまとめて数えるとだけ書いていて、足し方は読み取れません。こちらは同じ会話の補助のAIを1本にまとめて数えたので、同時に動いた分は重なって少なめに出ます。人が起動せず自動で動いた分は別に25.1時間ありました。
測れなかったことは3つあります。人の実際の労働時間、AIが出したものを人が実際に読んだかどうか、AIが増えたことで i-Style の採用や売上がどう変わったかです。この記事の数字はAIと人の時間の記録で、雇用への影響そのものを測ったものではありません。
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