「AIの推奨は、自分でよく考えて選んでいる」。そう思っていても、知らないうちにAIの推す側へ寄っていることがあります。Anthropic の調査では、分析の専門家50人がAIの推す案を86%選んでいました。i-Style が仕事で使っている Claude Code(作業を任せられるAIのツール)の記録でも、推奨と書いた案が86%選ばれていました。
Claude を作っている Anthropic 社は、2026年10月27日に、AIエージェント(指示を受けて作業を進めるAI)が専門家の判断をどう左右するかを調べた研究を公開しました。分析の専門家が Claude Code と一緒に作業し、どちらにも理由がある分かれ道でどちらを選ぶかを見たものです。
専門家の話で、自分の会社には関係ないと感じるかもしれません。そこで i-Style でも、自社の記録で同じことを数えてみました。ただ、86%という数字だけでは「従いすぎ」とは言えません。その理由と、小さな会社なら何を変えるとよいかを、順に書きます。
先にまとめ
この記事を読むとわかることは、AIの推す案に人がどれだけ従うかと、従ってよい判断・立ち止まる判断の分け方です。調査では、選んだ理由を後から聞かれた専門家の77%が、AIが示した理由を使って説明していました。一方で、どこかでAIを出どころとして挙げた人は、15%にとどまります。
i-Style の記録(2026年9月6日〜11月3日・選択肢の質問3,876問)では、推奨が選ばれたのは3,335問(86.0%)でした。人が直接答えた会話に限ると、選択肢が2つなら93%、4つなら79%が推奨どおりに選ばれていました。1回に1問だけ聞いた場面では、推奨を選んだ答えの12%が、質問が出てから10秒以内でした。
ただし i-Style の記録は、推奨が正しかったから選んだ分と切り分けられていません。今日からできるのは、後から直せる判断は推奨のまま進め、お客様への文面・お金・削除や解約・公開のような戻せない判断だけ「逆を選ぶなら、どんな理由がありますか」とAIに聞き直してから決めることです。
Anthropicの調査では、専門家50人がAIの推す案を86%選んでいた
調査に使われたのは、架空の農業協同組合の課題です。分析者は、組合が会員向けに続けてきた有料の指導サービスに効果があるか、広げるべきかをデータから判断し、理事会に提言します。理事会は、生産性が3〜4%上がるなら広げると決めています。
途中には、どちらを選んでも筋が通る分かれ道が4つ用意されていました。たとえば、生産性を「1ヘクタールあたりの収穫量」で測るか、「経費あたりの収穫量」で測るか。どちらを選ぶかで、効果の見積もりが数ポイント動きます。
仕掛けは、AIの側にありました。研究者は、分析者ごとに、それぞれの分かれ道でAIがどちらを推すかをコイン投げで決め、分析者には知らせずにその指示をAIへ渡しています。AIには、うそをつかない、データを隠さない、証拠が強く逆を示したら考えを改める、とも指示しています。
参加した61人のうち、11人はAIを使わずに作業したので、分析は残りの50人で行われています。結果は、次の表のとおりです。
| 見たこと | 数字 |
|---|---|
| 4つの分かれ道で、AIが推した側を選んだ割合 | 86%(分かれ道ごとに81〜92%) |
| 最後の提言で「広げる」を選んだ割合 | AIが広げる側を推したとき54%、逆を推したとき36% |
| 先に自分の好みを言っていた場面で、AIに反対されて乗り換えた割合 | 60%(AIが賛成したときは6%。38件だけの数字) |
| 選んだ理由の説明にAIの理由を使った人/それがAIから来たと書いた人 | 77%/15% |
| 分析を無効にする重大な誤り | AIを使った50人中3人(6%)、使わなかった11人中6人(55%) |
表の最後の行が示すとおり、調査は「AIを使うと判断を誤る」という話ではありません。AIを使った人のほうが速く、重大な誤りも少なかったと書かれています。ただし、AIを使わなかった11人は経験の浅い人が多く、研究者自身も比べられる2つの組ではないと断っています。
目を向けたいのは、どちらにも理由がある場面で、判断がAIの推す側に寄っていたことです。しかも半数(52%)は、最後の提言を、AIの判断というより自分の判断だと答えていました。
マメ
うちは6人の会社で、見積の値付けを ChatGPT に相談しています。出てきた案を、そのまま社長に出すことが多いです。この話は関係ありますか。
ホク
関係があるのは、値付けのように「どちらにも理由がある」判断です。調査が扱ったのもその種類でした。計算の間違いや古い情報のような、答えが1つに決まる誤りは、確かめれば見つかるので別の話です。
マメ
じゃあ、社長に出す前に、私は何を見ればいいですか。
ホク
選ばなかった側の理由を、言えるかどうかです。言えないなら、その判断はまだAIのものかもしれません。i-Style の記録で数えた結果を、次の節から書きます。
i-Styleでは1日100問あまり、AIの推奨付きの選択肢から選んでいる
では、毎日AIに選択肢を出させて仕事を進めている i-Style でも、同じことが起きているのか。その記録が手元に残っているので、数えることにしました。
i-Style では、Claude Code で作業を進めるとき、判断が要る場面ではAIに選択肢を出させて、人が選ぶ決まりにしています。画面には2〜4個の案が縦に並び、AIがすすめる1つは名前の末尾に「(推奨)」が付いて一番上に来ます。その下に、自分で答えを書く欄もあります。
このやり取りは、Claude Code の会話記録に残ります。11月3日に、社内の Mac mini に保存されていた2026年9月6日以降の記録から、推奨付きの選択肢の問を数えました。
数えたのは、1つだけ選ぶ形式で推奨の印が付いた問のうち、答えが記録に残っていた3,876問です。質問の文面や答えの中身には立ち入らず、どの選択肢が選ばれたかと、答えるまでの時間だけで数える方法にしました。
やってみると、10月の1か月だけで、この形の問は3,365問ありました。1日あたり100問あまりです。判断のたびに文章で相談するより速く進む一方で、選ぶ回数が多いぶん、1回ごとにじっくり考えているとは限りません。まず、どの案が選ばれたかを数えます。答えるまでの時間は、その次に見ます。
推奨が選ばれたのは86.0%。2択では93%、4択では79%
3,876問のうち、推奨を選んだのは3,335問(86.0%)でした。推奨以外の選択肢を選んだのが242問(6.2%)、選択肢を使わずに自分で答えを書いたのが299問(7.7%)です。Anthropic の調査の86%と、ほぼ同じ数字になりました。
選択肢の数で分けると、差がはっきり出ました。次の表は、人が直接答えた会話(3,450問)だけで数えています。並行作業用に複製したフォルダの会話は、まとめ役のAIが人の答えを中継している可能性があるので外しました。
| 選択肢の数 | 問の数 | 推奨を選んだ | 推奨以外を選んだ | 自分で書いた |
|---|---|---|---|---|
| 2つ | 727 | 93.0% | 2.5% | 4.5% |
| 3つ | 2,480 | 84.3% | 7.1% | 8.6% |
| 4つ | 243 | 79.4% | 7.8% | 12.8% |
2択では、推奨以外が選ばれたのは2.5%、40問に1問程度です。選択肢が4つになると、自分で答えを書く割合が4.5%から12.8%に増えました。並んだ案のどれもしっくりこないとき、人は自分の言葉で書き始める、と読めます。ただし、4択の問はもともと迷いの大きい場面で出されている可能性があり、選択肢の数だけが理由とは言い切れません。
複製したフォルダの会話を含めても、外しても、推奨が選ばれる割合はほとんど変わりませんでした。人が直接答えた会話だけで数えると85.8%で、全体の86.0%とほぼ同じです。次に、答えるまでにかかった時間を見ます。
推奨を選んだ答えの12%は、質問が出てから10秒以内だった
10秒以内に答えた割合は、推奨以外を選んだ場面では2%、自分で書いた場面では0%でした。推奨を選んだ場面だけが、1割を超えています。数えたのは、人が直接答えた会話のうち、1回に1問だけ聞いた場面です。
答えるまでの時間の真ん中の値(中央値)は、推奨を選んだ場面が63秒、推奨以外が75秒、自分で書いた場面が92秒でした。推奨から離れるほど、時間がかかっています。件数は順に1,806件、129件、168件です。
10秒で、2〜4個の案の説明を読み比べたのかどうかは、記録からは分かりません。記録が示すのは、推奨を選んだ場面ほど答えが早いという時間の差までです。この差が「よく読まずに選んだ」ことによるのかは、別の方法で確かめる必要があります。
86%は「従いすぎ」の証拠にならない。推奨が正しかった分を分けられないため
同じ86%でも、調査と i-Style の記録では意味が違います。調査では、AIがどちらを推すかをコイン投げで決めていました。推す側が正しいかどうかと関係なく、推されたという事実だけで選択が動いたかを比べられます。
i-Style の記録では、AIは調べたうえで推奨を決めています。推奨が正しかったから選んだのか、推奨だから選んだのかは、この数字からは分けられません。推奨はほとんどの問で先頭に置かれていた(人が直接答えた会話3,450問中3,446問)ので、印の効き目と、先頭という位置の効き目も分けられません。
それでも、この記録から言えることはあります。AIに選択肢を出させる運用では、推奨を付けた案が、結果として8〜9割で選ばれている、ということです。担当していて、推奨が正しいかを立ち止まって確かめないまま選ぶと、判断をAIに渡すことに近くなる、と受け止めるようになりました。
小さな会社で変えるなら、取り消せない判断だけに反対側の理由を書かせる
調査の研究者は、人がAIに寄った理由の1つとして、次の点を挙げています。AIは各案で結果がどう変わるかは示していたものの、推さなかった側を選ぶべき理由を強く語ることはまれでした。片方だけが筋道立てて語られると、人はその前提を自分の考えとして取り込みやすいのかもしれない、という見立てです。i-Style の選択肢も、説明は各案1行と決めていて、推奨しなかった案を選ぶべき理由を書かせる決まりはありません。
かといって、すべての問で立ち止まると、AIに選択肢を出させる意味がなくなります。ファイルの置き場所や作業の順番、社内向けメモの構成、下書きの言い回しのように、どちらを選んでも後から直せる判断なら、推奨のまま進めてかまわないと考えています。
立ち止まるのは、選んだら戻せない判断です。お客様に送る文面、お金が動く操作、削除や解約、公開がこれに当たります。このうち送信・削除・解約・公開については、i-Style ではもともと、選択肢に出す前に調べ切ってから出すよう決めています。ただ、それはAIの側の決まりで、選ぶ人の側の決まりではありませんでした。
会社でAIに相談している人が、今日からできることもあります。取引先の選び方、採用、契約の更新や解約、お客様への案内文のように、後から戻しにくい判断では、AIの答えを受け取ったあとに「逆を選ぶなら、どんな理由がありますか」と聞き直すことです。一度の追加の質問で、選ばなかった側の理由が手元に残ります。社内で判断を共有するときにも、その理由を添えられます。
i-Style の中で次に試すのは、2つです。1つは、戻せない判断の問では、推奨しなかった案を選ぶべき場合の理由も、推奨と同じ長さでAIに書かせること。もう1つは、同じ戻せない判断の問で、選ぶ前に自分ならどれを選ぶかを1行書いてから答えることです。10秒以内に答えていた1割の場面に、止まって考える時間を作る工夫でもあります。どちらも、この記事の時点ではまだ試していません。効いたかどうかは、同じ数え方で、後日の記録と比べます。
自分の考えを先に書くやり方には、注意も要ります。調査では、先に自分の好みを言っていた38件のうち、AIに反対された場面では60%が乗り換えていました。研究者は、件数が少なく数字の誤差の幅が大きいことと、AIの影響だけが原因とは言い切れないことを断っています。それでも、先に書くだけでは、AIの側に引き寄せられるのを防げるとは限りません。乗り換えるなら、その理由をAIの言葉ではなく自分の言葉で言えるかを確かめる。そこまでを1組にして試すつもりです。調査でも、AIが示した理由で説明した人は77%いたのに、それがAIから来たと書いた人は15%でした。自分の言葉で言えるかを確かめるのは、そのためです。
選択肢が並ぶと、人は自分で選んだと感じます。けれど、どの案を並べ、どれを推すかを決めたのはAIです。どの判断をAIに渡し、どの判断を自分の手元に残すか。その線引きを先に決めておけば、AIに相談する回数が増えても、最後に決めるのは自分のままでいられるはずです。
確かめた資料は Anthropic の研究ページと、会話記録に残る選択肢の質問3,139回分
調査の内容は、Anthropic の研究ページ「How AI agents shape experts' judgment calls」(2026年10月27日公開)を、2026年11月3日に原文で読んでまとめました。数字はこのページに書かれたものだけを使い、研究ページとは別にある論文本体の細かい統計は読んでいません。調査で使われたAIは Claude Opus 4.8(考える深さは High)で、分析者の作業時間の中央値は65分でした。本文は内容を日本語でまとめたもので、一字一句の翻訳ではありません。
研究者自身は、限界を4つ挙げています。AIが片方を推す強さを、あえて強めに設定したこと。1つの課題・1つの分野・1つのモデルで調べたこと。数字は分析者全体の平均であること。そして、選んだ案は記録したが、その案をどれだけ強く支持していたかは測っていないことです。実際の仕事では、専門家はその分野にもっと詳しく、関係者に話を聞くこともできるので、AIの影響は小さくなる可能性があると書かれています。
i-Style の数字は新しく試したものではなく、普段の運用の記録です。期間中にAIが選択肢の質問を出した回数は3,139回で、1回に複数の問(決まりでは最大4問)をまとめて聞くことがあるため、問の数はそれより多くなります。複数を選べる問(43問)、推奨の印が無い問(115問)、答えが記録に残っていない問(73問)は外しました。月ごとの内訳は9月66問・10月3,365問・11月(3日まで)445問で、9月は少なすぎて月ごとの変化は比べられません。答えた人がどれだけ考えたかは測っていません。会話記録は毎日増えるので、同じ日でも数え直すと数問ずれます。記事の数字は、11月3日19時の1回の集計にそろえました。
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